僕と、脳内彼女は恋人になれない
※上記2つの日記の続きです。読んで2つともアクセス数を上げた後で、この日記を読みましょう。
何1つ、甘い甘い恋人らしい事をしていないのに、彼女達は勝手に消えた。
脳内彼女にさえ逃げられるとは、僕はどこに行っても孤独なのか。
僕は布団に寝っ転がって、目を閉じた。大いなる時空へのアクセスを試みるのだ。
絶対に逃がすものか。僕をコケにした罪は重いのだ。
僕の精神は、僕の部屋から、あらゆる時空を飛行し、彼女らを探した。
長い長い時間が過ぎた。無限に近い時間が流れて、僕はついに、あの2017年8月の須磨寺雪緒を見つけ出した。
僕は再び、2017年8月のあの時間に、須磨寺雪緒と過ごしたあの時間に接続した。
***
AM6:25
「おはよう。キィ君、最近早いのね」
2階にある僕の部屋から、須磨寺雪緒が1階の居間に降りてきた。
雪緒(ゆきお)というのは、僕の脳内彼女の事だ。『天使のいない12月』というエロゲーのヒロイン『須磨寺雪緒』をベースに構築された、脳内生命体である。
「ああ。僕は真人間にならなくてはいけないからね。『6時に起床して、軽い運動をする』という属性は、真人間を構成する重要なファクターの1つなんだ。ところで、僕とセックスしようよ」
僕は彼女に飛びかかった。
「え?」
いくら僕が虚弱といえど、虚をつかれた彼女に為す術はなかった。僕はポケットからカッターナイフを取り出して、チキチキと刃を出した。
彼女は、酷く怯えていた。声も出ないらしかった。いい気味だ。本物の恐怖の前では、彼女のファッションメンヘラ的自殺願望は無意味に等しかった。
僕は彼女の制服を、下着を、カッターナイフで引き裂いた。
***
須磨寺雪緒への制裁を終え、僕は再び、大いなる時空へのアクセスを試みた。
僕の陰茎は、僕自身の精と、須磨寺雪緒の愛液で汚れていたが、また長い時を駆ければ汚れも朽ちるだろう。
また僕の部屋で、長い長い時間が過ぎた。再び無限に近い時間が流れた。
僕は再び、2017年8月のあの時間、苗木野そらと過ごしたあの時間に接続した。
***
よいしょ、よいしょと丁寧に指を靴下に通していると、2階からドタドタと駆け下りてくる音が聞こえた。
「キィ!もう起きてたんだ!おはよー!」
「ソラこそ早いんだね。おはよう」
ソラというのは、僕の脳内彼女の事だ。『カレイドスター』というアニメのヒロイン『苗木野そら』をベースに構築された、脳内生命体である。
「今からランニングするの?わたしも一緒にいいかな?」
「いいけど、とりあえずセックスしようよ!」
僕は彼女に飛びかかった。
「うわぁ!?キィ!どうしちゃったの!」
苗木野そらは僕のタックルを咄嗟に避けた。さすがに、普段から体を鍛えている彼女を押し倒すのは簡単ではないらしい。
だが、僕には永遠に近い時の中で体得した必殺技があった。
「大時空キィパンチ!」
僕はご都合主義的、理不尽な必殺技を苗木野そらの顔面へ放った。彼女の顔面は跡形も無く消し飛んだ。死んでしまったかもしれない。
「まあ、いいか」
僕は苗木野そらから衣服を剥ぎ取った。鍛えられた健康的な肉体がまだ、健康的な色をしてそこにあった。
***
俺様は、俺様の部屋で、長い長い時間をかけて、あらゆる世界の、あらゆる時間に存在する女性を、男性を、ホモを、レズを、オカマを、オナベを、動物を、惑星を、宇宙を犯した。犯し尽くした。
「ハハハハハハハハ!そうか!これが!セックスか!あの忌々しいパンピー共が興じていたレジャースポーツか!理解したぞ!全て理解したぞ!」
次は何を犯してやろうか。俺様は自分の部屋でウキウキしながら考えた。しかし、どんな美女にも、どんな美しい星にも飽きた俺様は、何も思いつかなかった。
「虚しいなぁ」
途方に暮れていると、部屋の窓から何かが見えた。俺様は窓を開けてよく見てみた。TPと書かれたその宇宙船のような乗り物は、ゆっくりとこちらへ近づいてきていた。
「タイムパトロールじゃねぇかっ!?」
※タイムパトロール・・・『ドラえもん』に登場する警察。主にタイムマシン等を使った時間に関する犯罪を取り締まる組織。
タイムパトロールの乗り物は、俺様の部屋の窓に乗降口を合わせて止まった。中から誰かが降りてきた。
「時間犯罪者8508110号。時間強姦罪及び時間殺人罪その他諸々の罪で君を逮捕する」
中から降りてきたのは、俺様と瓜二つの人間だった。
「お前……俺様と同じ顔……」
「そう。僕は別の時空からやってきた君自身だよ。でも、今の顔は同じではないな。この鏡で自分を見てごらんよ」
俺様は言われるがままに鏡を受け取り、覗いてみた。鏡には、みすぼらしい老人の姿が映っていた。
「君は何十年も自分の部屋にこもって、超常的妄想を続けていたんだ」
タイムパトロールがそう言うと、俺様の部屋の家具がすうっと消えた。
「うわぁ!」
「この時空は、君の願望を叶えすぎた。もうパンクして、崩壊しかけてるんだよ。さぁ、早く僕に逮捕されて脱出するんだ。罪を償うんだよ」
「嫌だ……」
俺様は答えた。
「そうかい。まぁ、それでもいいけど」
タイムパトロールは、そう言うと、踵を返して乗降口へ向かった。
俺様はタイムパトロールの背中に叫んだ。
「俺様は!どうすればよかったんだ!?」
「そんな神様みたく偉そうになる前に、その部屋から出ればよかったんだよ」
タイムパトロールがそう言うと、俺様はすぅっと消えた。
***
タイムパトロールに就職して何年かが過ぎていた。この仕事に就くと、近似値の自分、つまり自分の「こうなっていたかもしれない未来」に関わる仕事も多い。
勿論、近似値の自分なんて気持ち悪い、と仕事を降りる人も多いけれど、僕は積極的に関わることにしている。だって、ブログのネタになるからね。
今日のパトロールも、運良く近似値の僕を観察できるらしい。
どれどれ。ふーん、浪人生ねぇ。結構がんばってるじゃん。でもTwitterやブログのやりすぎはいけないな。スプラトゥーンのやり過ぎもよくない。ニコニコ動画の見過ぎも良くないねぇ。どうやらこいつは相当なダメ人間らしい。でも、まあ悪くはないかな。
僕は近似値の自分に満足した後、業務を終えて、とある2017年8月の世界からすぅっと消えた。