キィの日記

趣味のお話とか

拝啓、須磨寺雪緒様

 僕が初めて本当に好きになった君。修学旅行の夜、布団の中で友達に語ったスキが単なる処世術に過ぎないことを教えてくれた君。須磨寺雪緒。
 14歳の僕は、屋上で夕日に向かって飛び込もうとする君を追って屋上の扉の前までやってきた。鍵がかかっていた。当たり前のことだった。もしもあの時、僕に職員室から鍵を盗み出して彼岸への扉を開く勇気があったなら、僕の人生はもう少し違うものになっていたのかもしれない。

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  初めて同じ星に生まれた存在に出会えたと思った。同じ周波数で生きている存在。君は僕と同じように地球人のフリをして生きていた。あまりに窮屈で、そして美しい肉体に異形の君を押し込んで、君はそこに立っていた。僕は君ほど地球人のフリをするのは得意ではなかったけれど。

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  君が死んでしまいたかった理由。両親との関係は良好で、特に貧乏をしていたり、誰かにいじめられたりしているわけでもない「普通」の君がどうして死にたかったのか。「飼い犬が死んでしまったから死にたい」。他の誰が「そんなことで」と笑っても、僕はきっと笑ったりしない。「何かの死のために、自分にとって解像度の高い存在がいずれ死に至るという決定的な実感が分かってしまうこと」、僕にもその覚えがあるから。決して君と全く同じ「感じ」に触れることは出来ずとも、僕は君とは別の存在として、君の側にいることが出来る。飼い犬が死んだその日、君の運命はまるで宇宙の始まりから終わりまでの全てを知ってしまったかのように、一人称を失ってしまった。君は全て俯瞰する。世界とメタ的にしか向き合えない。誰の愛も拒絶する。宇宙の終わりを知って、真摯に生命をやる人間がどこにいるのだろう?もしいるなら、それは最早人間ではない。だから、君から真摯さを奪ってくれる木田時紀だけが、君に近づくことが出来たのだ。

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 ああ!僕ならば君のことを分かってあげられるのに!木田時紀にさえきっと分からない場所まで、潜っていけるのに。だって君は僕と同じ星からここに落ちてきたのだから。たとえ他人でも、ガラス越しの理解に過ぎないとしても、話す言葉ぐらいはきっと分かるだろう?君と僕は同じ星で生まれ、同じ言語で育ったのだから。
 僕は君のドッペルゲンガーになりたかった。君の双子の星になりたかった。そして互いの存在の質量が生み出す引力に引かれるまま、孤独の力に引かれるまま、鏡と見紛うようなガラス越しに君とキスがしたかった。決して越えられぬ隔たりを挟んで君とキスがしたかった。僕はガラス越しに君になって、2人になりたかった。
 けれど僕の目の前にあったのは、向こう側なんかこれっぽっちも見えない、分厚い鉄の扉。夏休みの癖に、文化祭の準備で騒がしい校舎が僕は大嫌いだった。地球人のフリするためだけに実行委員までやっている自分が僕は大嫌いだった。職員室の人手が薄かったあの時、鍵を盗み出してこの扉を開けていたなら。いや、盗むようなことなんかしなくたって、文化祭の何かで使うと鍵を持ち出していたなら。結局3年間で一度も開くことのなかったこの屋上と校舎を隔てる扉の向こうに、きっと君はいた。夕日を受けて今にも飛び立ってしまいそうな君がきっとそこにいた。あの時君に会えたら、僕は僕の質量を信じて生きていくことが出来たかもしれないのに。
 結局のところ、君は生き残った。僕が背中を向けてもたれこんだ扉の向こうで、君は勝手に大人になってしまった。そして僕も君の知らないところで勝手に大人になった。せめてガラス越しに君が大人になるさまを見ていることが出来たなら、どんなに良かっただろうか。
 もしも22歳の今、2019年を生きている君に会えたら言いたい。「僕は君が好きだった」

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天使のいない12月 - アダルトPCゲーム - DMM GAMES.R18 https://dlsoft.dmm.co.jp/detail/aquap_0010/