キィの日記

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書評 滝本竜彦・『超人計画』

日本全国津々浦々、古今東西、ダメ人間という生き物はいっぱいいます。

その中でトップクラスにダメ人間だと個人的に思っているのが、今回紹介する『超人計画』の著者・滝本竜彦先生です。

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超人計画 (角川文庫)

超人計画 (角川文庫)

 

ほぼ全編を通して脳内彼女と会話し続けるエッセイ

 滝本竜彦は重度のヒッキーで、小説家になってから少しずつ改善しているものの、まだまだ引きこもりがち。彼の脳内に住んでいる想像上の彼女「レイ(モデルは当然、新世紀エヴァンゲリオン綾波レイ)」との会話が彼の癒やしです。

 そんな滝本竜彦が人間彼女を作り、明るい人間=超人になることが本エッセイの目的として設定されています。

 レイと一緒に原付に乗ってデートをします。旅行にも行きます。NHKの収録にも行きます。収録前の緊張をレイとの会話で緩和しようとします。いやーヤバイ。

 しかも、この「レイ」というキャラクター。あまりにも滝本竜彦と長く暮らしすぎたせいで滝本竜彦の好み通りに変容しており、綾波レイの原型がありません。いやーヤバイ。

 というか冒頭で人間彼女を作るって目標設定したのにいつまで経ってもレイと一緒に遊んでいるのが完全にヤバイ。

いきなりダメ人間→超人を目指す頭の悪さ

 僕らヒッキーという生物は、異常な程の完璧主義者が多いです。勉強をすれば必ず東大に入れると本気で信じています。小説を書けば必ずノーベルや芥川を取ると本気で信じています。それ故、理想と現実のギャップが広すぎ、「こんな恥ずかしい自分は社会に出てはいけない」と引きこもってしまうのです。

 それは「ひきこもりを脱しよう!」というレベルの低い目標にまで悪影響を及ぼします。あろうことか滝本竜彦は目標を「普通の人」でなく、哲学者フリードリヒ・ニーチェが定義するところの「超人」をいきなり目指し始めます。

 詳しい話は割愛しますが「超人」というのは言葉通り人類にはとても達成できないような概念です。

 それ故、滝本竜彦は一層深みへとハマってしまうのです……。

滝本竜彦という人間がよく分かる本

 自分の悩みを心理学や哲学の難しい言葉で分析して書いてみたりする見栄っ張りなところ。脳内彼女という概念を持ち出して自分の人生を「おふざけ」にしてしまうところ。

 滝本竜彦という人間が如何に拗らせているかという事がよく分かる本で、個人的にはかなり面白かったです。

 良くも悪くも自分の全てを素直に書き綴った魂のエッセイだと思いました。

 拗らせたオタクは全員読めばいいと思います。読んで頭を抱えればいいと思います。