キィの日記

趣味のお話とか

品田遊『名称未設定ファイル』 感想

 我々が住むインターネットで日夜起こる出来事をテーマにしたものを主として取り上げつつ、インターネット要素はそれほどでもないSFまで、品田遊が自分に書けるものを出来るだけ沢山持ってきてくれたショートショート集。
 17篇すべて面白い。
 だが、特筆すべき1篇を上げよ、と言われたら、僕は迷うことなく『最後の一日』を挙げる。
 これは本当にすごい。芥川賞の対象にショートショートが入っていないことを残念に思う。
 所謂、「陰キャ(グラデーションを消失させてラベル付けするこの言葉はあまり好きではないが、便宜上用いる)」に類されるであろう大学生が、東京から群馬の実家へ帰省し、交通事故で死ぬまでを描いた短編だ。
 主人公・久内寿也は、ソシャゲのガチャ結果をTwitterに投稿してボヤく大学生である。漫画家が仕事の合間に描いた二次創作イラスト、ゲイビデオのワンシーンをアニメ画像の上に強引にコラージュしたもの等をリツイートする大学生である。久々の実家で、母親の少しうざったい質問攻撃に「ん」と答える大学生である。フランシスコ・ザビエルが運営しているという設定のTwitterアカウント『フランシスコ・ザビエルbot』というユーモアを発し、いいね!とリツイートを稼いでいる大学生である。故郷で久々に会った友人の生き生きとした近況報告を聞いて、空っぽの自分を虚しく思う大学生である。東京都在住で21歳の大学3年生である。
 
 名称未設定ファイルのショートショートには、星新一や藤子F不二雄や『世にも奇妙な物語』のような「一発の仕掛けが肝になっている物語」が多い(ショートショートなんだから当たり前だろ、と言われたらそれまでなのだが)。
 ところが、この『最後の一日』に関しては、とにかく肖像に徹している。久内寿也という人間の肖像を如何に正確に写すか、それに徹している。それが結果的に「一発仕掛け」で構成された他の物語の中にもあった「肖像的要素」に気づかされるキッカケにもなる。この品田遊という作家は、単なる「一発仕掛け」だけで物語をやっている人間ではない。人間の肖像をテキスト化して読者へ届けるパワーがある作家なのだ。

 この人は多分短編じゃなく長編を書いても面白いだろう、と思う。とにかく物語を書くための能力が全体的にバランス良く優れている。それでいて、決して特徴がなく面白みが無いとか、そういうこともない。

 とにかく早くみんなに読んでほしい。

名称未設定ファイル

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