劇場版魔法少女まどか☆マギカ[新編]叛逆の物語　感想　～暁美ほむらという女の子について～

鹿目まどかの願いは魔法少女の呪いを解き放ち、これまでに存在した、或いはこれから生まれ来る少女達の希望を救った。
　しかし、唯１人、TV版では救われていない魔法少女がいる。
　暁美ほむらである。

　彼女の願いは「まどかとの出会いをやり直し、彼女に守られる存在から彼女を守る存在になりたい」だったわけだが、その願いの真意は「鹿目まどかと対等な立場でもっと一緒にいたい」である。人が「金持ちになりたい」と願う時、多くの場合は紙幣それ自体が好きだからそれを願うのではない。それによって得られる安心や車、家などの資産に惹かれているのだ。
　暁美ほむらが「鹿目まどかを守りたい」と願ったのは「鹿目まどかと対等な立場でもっと一緒にいたい」からである。
　しかしその願いは鹿目まどか自身と水と油の関係になる。鹿目まどかの「全ての魔女を生まれる前に消し去りたい」という願いの心は「みんなに絶望してほしくない」である。そのために鹿目まどかは宇宙の新たなルール「円環の理」となり宇宙にあまねく魔法少女達を救った。
　しかし暁美ほむらにとっての救いとは「鹿目まどかともっと一緒にいる」ことであって必ずしも「鹿目まどかの望みを叶える」ことではない。
　故に暁美ほむらは魔女が消え、魔獣なる新たなバケモノが跋扈する新世界において救われる事は無い。鹿目まどかが存在しないという絶望の中に生きている。
　他の魔法少女達が円環の理による祝福によっていくらかその絶望から解放された世界にあっても暁美ほむらだけは孤独なままなのだ。
　この結末は「少し苦い結末」として放っておいても物語的にはなんの問題もない。全てがするりと上手くいく物語はまどか☆マギカにふさわしくないような気さえする。
　しかし頑張ったキャラクターには「がんばったで賞」をプレゼントしたい、というのがストーリーテラーの性である。
　本作『叛逆の物語』のコンセプトは暁美ほむらに「がんばったで賞」をプレゼントする、という物であるような気がする。

暁美ほむらの本当の願いは何だったのか

　暁美ほむらの本当の願い、それは「鹿目まどかを独り占めにしたい」である。

　それは鹿目まどかの「誰とでも親友になれてしまう才能」が作り出してしまった願いだ。

　弱みを晒すことを頑なに拒む人間を人は信用しない。暁美ほむらがそれだ。

　この暁美ほむらの傾向は髪を解いて無愛想な彼女になってからの物ではない。髪を編んでいる頃からこの傾向は存在していた。

　髪を編んでいた頃の彼女は勉強や運動が出来ない事をコンプレックスに感じ、他人を遠ざけていた。もし暁美ほむらが「弱みを晒せる人間」だったならば、このドジ属性を武器にコミュニティへ参画する事が出来たはずなのだ。ダメであることは必ずしも短所ではない。実際、髪を解いて無愛想になった彼女はなんでも出来てしまう秀才であったのにクラスから孤立していた。これはもはや孤立の原因は暁美ほむら自身の魂だとか、能力等の要素を排除した根本的な部分が孤立するよう設定されているからだと定義する他はあるまい。

　故に本来暁美ほむらには絶対に友達は出来ないはずなのだ。「弱みを晒す能力」を身に着けない限りは。

　しかしここで鹿目まどかというイレギュラーが出現する。彼女は誰とでも親友になることが出来る。もちろん、暁美ほむらとも。

　それは暁美ほむらにとっては「私の唯一の理解者・鹿目まどか」の誕生を意味する。

　そうなってしまえばもう暁美ほむらは鹿目まどかに依存するしかない。行動の全てを鹿目まどかに捧げるしかなくなってしまうのだ。

　鹿目まどかにとって暁美ほむらは「わたしの、最高のともだち」であるが、それは美樹さやかも志筑仁美も巴マミも佐倉杏子も皆「わたしの、最高のともだち」なのだ。

　しかし暁美ほむらにとってはどうだろう？暁美ほむらにとっての鹿目まどかは「わたしの、唯一のともだち」である。

　この非対称性が『まどか☆マギカ』全編に渡って大きく2人を隔たらせながら、同時に混ぜ合わせている。向きを変えればくっつくが、向きを反対にすると大きく反発する。暁美ほむらと鹿目まどかの関係は磁石に近い。