俺はホモじゃねぇっ!~映画評『ダラス・バイヤーズクラブ』~
ある日突然エイズになってしまったギャンブル大好き女大好きなロクデナシの物語。実話を元にしている。
あらすじ
テキサス州ダラスに住む電気技師のロン・ウッドルーフはギャンブル大好き女大好きのロクデナシ。そんな生活が祟ってある女との生セックスでHIVに感染。余命30日を宣告されてしまう。1980年台当時まだエイズは多くの市民にホモの病気と認識されており、また保守的なテキサスではホモ差別も酷く、ロンはエイズの苦しみの上、仲間にホモ認定されてハブられるという二重苦を背負ってしまう。
それでもロンは諦めない。世界中からまだアメリカでは認可されていないものの、結果を出している薬を密輸し自分の治療ついでにビジネスを始める。同じエイズのカマホモ野郎・レイヨンとタッグを組んで……。
直接薬を販売すると法に触れてしまう。ロンはエイズ患者の会員制クラブを結成し、その会員に無料で薬を配る事にした。利益はクラブの会費で得るのだ。これなら法の穴を突ける。
クラブの名前は『ダラス・バイヤーズクラブ』。
自堕落なヤンキー、ロンの成長物語
自堕落なダメ人間のロンが、エイズを患った事で『生き伸びる』という強い目標に目覚める姿がかっこいい。アメリカでは認可されていないが、有効な治療薬があるならば世界中どこへでも飛び、時に税関と喧嘩しながら密輸を成し遂げる。
また、最初は金の為に『ダラス・バイヤーズクラブ』を運営しているけれど、同じエイズのカマホモ・レイヨンや老若男女のエイズ患者との出会いで次第にクラブが慈善事業じみていくのは王道だけれど胸を打つ。
カマホモのレイヨンとの友情が素敵
カマホモ(というかMtF)のエイズ患者・レイヨンとロンの友情が良い。
テキサス出身のロンは他の多くのテキサス人と同じようにゲイに対して強い差別感情を持っているのだけれど、レイヨンとの出会いで少しずつ変わっていく。
最後の最後まで「死ねカマホモ野郎!」みたいなロンのレイヨンに対する言動は変わらないのだけれど、同じセリフでも中身が変わっていって、同じような言葉なのに親しみのある表現になっていったのが本当に良かった。
2人を恋愛関係にさせないのが素敵なんだよね。最後までロンはノンケのまんまなんだけど、ロンもレイヨンもお互いがお互いを認めて親友になってるわけ。
考証は結構いい加減?真に受けない方が良さそう
実話を元にしているけれど、考証は結構いい加減に感じた。
例えば作中で「トイレに流して捨てろ」「AZTを処方しているお前は人殺しだ」とこき下ろされているAZT(ジドブジン)という薬は現在でもちゃんとエイズの治療に使われているっぽい(80年台当時は研究が進んでいなかった為にこういう扱いだったのかも。日本語で色々調べたけれど当時のアメリカとAZTの文化的背景について書かれた文章は見つかりませんでした)。その辺の考証まとめを特典映像とかに入れてほしかったかも。
細かい不満点はあるけれど、実話を元にしたフィクションとして最高の出来でした!結構悲惨な話なのだけれど、ロンの陽気な不良性のおかげでそこまで悲壮感が出過ぎてないのもグッド。向井理がラジオで紹介してたのを聴いて知ったんだけど、いやーほんとおもしろかった。