キィの日記

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書評 秋山瑞人・『猫の地球儀』

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二冊でワンセットよ。

あらすじ

地球の周囲を回っている、「トルク」と呼ばれるコロニーらしき場所。既にトルク内の人類は滅び、そこでは人間並の知性を持つ猫達が生活していた。

猫達は「大集会」という宗教組織を結成し、トルクを統治していた。

大集会には悩みのタネがあった。地球への上陸を目指す科学者集団「スカイウォーカー」だ。

大集会の教えでは「死んだ猫の魂は流星となって地球へ落ちる」となっている。もし、スカイウォーカー達が地球上陸の為の研究成果を吹聴し、社会が混乱してはマズイ。

故に、大集会はスカイウォーカー達を異端者とし、粛清してきた。

37代目のスカイウォーカー・幽(かすか)は先代のスカイウォーカー達の研究成果を元に、ついに地球突入用のポッドを完成させようとしていた。

しかし、完成直前、取引相手のヤクザのミスで、アジトの場所が大集会にマークされてしまう。

幽は大集会の目を誤魔化すため、スパイラルダイブという格闘技に目を付けた。

スパイラルダイブとは、今、猫達の間で大人気の格闘技である。優勝者は大集会さえも震え上がる権力を手に入れる事が出来た。

幽はスパイラルダイブ最強の猫・焔(ほむら)に野良喧嘩を売り、勝利した。スカイウォーカーの科学技術の前ではスパイラルダイブ最強の猫も赤子同然である。

負けず嫌いの焔は必ずリベンジを申し込んでくる。そして、「自分の獲物である幽には手を出すな」と大集会を牽制してくれるに違いない。

幽の計画は成功した。しかし、焔はそれだけで終わるほど単純な相手ではなくて……。

猫版Falloutだったり、Kerbal Space Programだったり

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Fallout:ご存知核戦争後の荒廃した世界を生き抜くゲーム。ベセスダ・ソフトワークスが制作した3と4が特に有名。

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※Kerbal Space Program:通称KSP。緑色の生命体(通称:緑君)の為に宇宙船を設計し、太陽系を制するゲーム。最近では緑君を非人道的なロケットに乗せ、燃やしたりする遊びが流行っている。

 

人間の痕跡が確かに残るトルクを猫達が歩き回っている描写がFallout的で素敵。幽の宇宙船作りも(僕にはそれが妥当な描写なのかわからないけれど)KSPみたいで楽しい。

秋山瑞人が学生時代に書いた小説のスピンオフと言うだけあって、「好きなもの全部乗せ丼」感がすごい。

終末世界と宇宙開発。というだけでも書けそうなのに、そこに格闘技要素とか、宗教と科学の関係性とか、それに伴うディストピア的要素とか、あらすじでは触れなかったけれどロボット要素とか、そもそも登場人物全員猫なところとか、とにかくモチーフ過多。

それでも1本の小説で、しかも電撃文庫がゴーサインを出す程度には平易な文章で形にしてしまうのだから秋山瑞人は恐ろしい。

ポストアポカリプスとか、ディストピアとか、宇宙とか、男の意地とかロマンとか、猫とか、そういうのに興味がある人は読んで損しないと思う。

児童文学と一般文芸の間にある物語、という意味で正しくラノベラノベしていて読んでいて気持ちがいい。やっぱりラノベはこうじゃないと(あなたがライトノベルと思うものがライトノベルです。ただし、他人の賛同を得られるとは限りません。)

 

 紙の本はもう絶版ぽいので紙が欲しい人は近くの本屋の売れ残りか古本を探そう。